和歌の表現技法

国語

中学3年生の国語教科書では、『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』の和歌を紹介する章があります。今回は和歌の表現技法についてまとめました。定期テストや高校入試対策の参考にしてください。

高校入試の和歌

2022年栃木県の高校入試問題では、下記のような問題が出題されました。

(問)次の二首の和歌の□には同じ語が入る。適当なものはどれか。

•東風吹かばにほひをこせよ□の花あるじなしとて春を忘るな(菅原道真)
•雪ふれば木ごとに花ぞ咲きにけるいづれを□とわきて折らまし(紀友則)

 ア、梨 イ、梅 ウ、藤 エ、竹

答えはイの梅です。

一つ目は、太宰府へ左遷される道真が家の梅の木に語りかけている歌だと言われてます。東風(こち)は東から吹く春風。春には街路でも梅の木に花が咲いているのをよく見かけますよね。

二つ目は雪の白さを梅の花にたとえた歌です。木ごとを「木毎」と書くと「梅」という漢字になる言葉遊びでもあります。

読解問題でも短歌・和歌を扱った文章が出題されることがあります。

たとえば、2022年の滋賀県で栗木京子『短歌を作ろう』から、2020年の岩手県で栗木京子『短歌を楽しむ』から出題がありました。栗木京子さんといえば、光村図書の中学2年の教科書で「短歌に親しむ」という短歌解説の文章が掲載されていますね。

都立高校では2022年に八王子東高校で鉄野昌弘「歌謡の仕組み」から、2021年に日比谷高校で篠田治美「和歌と日本語」から出題されています。また、2020年の岡山県では鈴木宏子『「古今和歌集」の創造力』から和歌の表現技法について書かれた文章の出題がありました。

中学校では3年生の教科書に『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』の和歌を紹介した章があり、和歌の表現技法についても習うことになります。

和歌の表現技法

和歌特有の表現技法で主なものは「枕詞」「序詞」「掛詞」「縁語」の4つです。

多くの人になじみ深い百人一首の歌を例にこれらの表現技法を紹介します。

枕詞

枕詞(まくらことば)は、特定の言葉の前に置いて、語調を整えたり、印象を強めたりする五音の言葉です。枕詞は現代語訳しないことが多いです。

ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは

在原業平

川一面に紅葉が散っている様子を詠んでいます。

漫画『ちはやふる』で有名な歌ですね。

かるた大会を企画したことがあるのですが、優勝者は『ちはやふる』がきっかけで百人一首を覚えた生徒でした。やっぱり漫画の力はすごいですね。まちがいなく和歌への関心が深まる漫画です。

「ちはやぶる」は「神」を導く枕詞です。「たけだけしい」「荒々しい」といった意味があり、古事記にも「道速振荒振國神(ちはやぶる荒ぶる国つ神)」という記述があります。昔から神を連想する言葉だったのですね。

他にどんな枕詞があるか、いくつかまとめました。左が枕詞で右が導かれる語です。

  • あおによし(青丹によし)→奈良
  • あしひきの(足引きの)→山、峰
  • うつせみの(空蝉の)→命、世
  • たらちねの(垂乳根の)→母、親
  • くさまくら(草枕)→旅  
  • ひさかたの(久方の)→光、日、天
  • しろたへの(白妙の)→衣、袖、雪、雲   
  • ぬばたまの(射干玉の)→黒、夜、闇 

序詞

序詞(じょことば)も枕詞のように後にくる語句を導き、語調を整えたり、印象を強めたりする言葉です。七音以上になり、枕詞のように導かれる言葉の決まりはありません。

 あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む

柿本人麻呂

ひとり寝のさびしい夜の歌です。

「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の」が「長々し」を導く序詞です。

「しだり尾」というのは長くたれた尾のことで、後ろの「長々し夜」の比喩になっていてます。「山鳥の長くたれた尾のように長い夜」ということですね。

「あしひきの」は枕詞にもなっています。

掛詞

掛詞(かけことば)は、一つの語に異なる意味を持たせたもののことです。

 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む        

中納言行平(在原行平)

別れの悲しさ、恋しさを詠んでいます。「まつ」が掛詞で「松」と「待つ」のふたつの意味がかけられています。         

小野小町の下記の歌も有名です。

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身ふる ながめせしまに

小野小町

花が色あせていくように自分の美しさも色あせていくという歌です。

この歌には掛詞が三つ使われています。

「世」「世の中」「男女の中」の掛詞です。

「ふる」は時が「経る」と雨が「降る」の掛詞です。

「ながめ」「眺め」「長雨」の掛詞です。
※「眺め」は古語で「物思い」という意味があります。

縁語

縁語(えんご)は、意味に関連があり、連想される語句のことです。

玉の絶えなば絶えながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする

式子内親王

命が絶えてしまいそうなほど忍ぶ恋の歌です。

玉の緒は玉を通す緒のことですが、命(魂の緒)の意味もあります。

「絶え」「ながらへ」「弱り」は、緒の縁語です。緒の状態を連想することができます。

命が絶えたり心が弱ったりすることを「緒」の縁語で繋いでいるのがとてもおもしろいですね。

百人一首を読もう

和歌といえば、多くの人になじみ深いのが百人一首ですよね。今でも授業で覚えたり、かるた大会をしている学校もあります。

百人一首は解説本がたくさん出ています。和歌に苦手意識があったり、自分とは縁がないもののように感じている人は、漫画でも良いので何か解説本を読んでみるのをおすすめします。私が百人一首に興味を持ったきっかけも子どもの頃に読んだ解説漫画でした。

最近出た本だと2021年に歌人の水原紫苑さんが『百人一首 うたものがたり(講談社現代新書)』を出版されました。

歌の背景や歌人の歴史的な紹介も詳しく、万葉集や古今集など和歌の引用も豊富です。また、「うたものがたり」とタイトルにあるように、物語を読むように百人一首の世界に入っていくことができます。

たくさんの美しい言葉に出会える素敵な本です。

愛と死が宇宙の天秤にかけられているようだ。今日も愛の側に傾いてくれますように。

水原紫苑『百人一首 うたものがたり(講談社現代新書)』

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