読書は孤独な営みではありますが、誰かに本をプレゼントしたり、内容について語り合ったり、本はコミュニケーションを媒介するものでもあります。
私も生徒たちとよく本の話をします。
最近の子どもたちはどんな本を読んでいるのでしょうか。
近年だと、住野よる『君の膵臓をたべたい』や七月隆文『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など、映画化した人気作の名前をよく聞きます。東野圭吾さんは根強い人気があります。
最近の作品ばかりではなく、自分が子どもの頃に読んでいた本を、今の子どもたちが読んでいると何だか嬉しくなります。
宗田理「ぼくらシリーズ」
『ぼくらの七日間戦争』が出版されたのは1985年。私よりも、もっと上の世代の人たちに読まれていた本ですが、私が子どもの頃も本屋さんに並んでいて、このシリーズを集めていました。
最近ではカバーも親しみやすいイラストになり、子どもたちによく読まれています。
宗田理さんの本は会話文が多くセリフでストーリーが進んでいくので、活字がびっしり埋まっている本が苦手な子どもたちでも読みやすいです。
理不尽な大人や社会と戦う子どもたちのストーリーは勇気を与えてくれます。
学生運動が元ネタですが、今の子どもたちは学生運動を知りません。小説をきっかけに学生運動を知り、権力と戦う精神を受け継いでいくのでしょう。
翻訳小説
海外の翻訳小説も読まれています。
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』やロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』そして、一時のブームほどではないですが、J・K・ローリングのハリーポッターシリーズは今でも人気があります。
学校教科書でも紹介されているサン=テグジュペリ『星の王子さま』もよく読まれています。
翻訳小説といえば、国語の教科書には、さりげなくJ・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』が紹介されています。
教科書で紹介されているのはこの野崎孝さんの翻訳ですが、村上春樹さんの翻訳も出ていますね。私が初めて読んだときは、まだ新訳は出ていなかったので野崎孝さんの訳で読みました。村上春樹さんも好きなので新訳が出たときはもちろん買いました。
インチキだらけの教師や同級生にうんざりした主人公が学校をドロップアウトして放浪する(妹に会いに行く)ストーリーです。過激なセリフも多く、全然教育的な話ではないので、この小説を紹介してくれる教科書の懐の深さを感じます。
世の中の欺瞞に疑問を抱くセンシティブな年頃の味方になってくれる本です。
『ライ麦畑でつかまえて』は、私が初めて神保町でペーパーバックを買った小説でもあり、今でも時々読み返す思い出深い作品です。英語の勉強にもなるので原書もおすすめです。
太宰治『斜陽』
中学校の国語教科書に「走れメロス」が掲載されているので、そこで初めて太宰治を読むという子どもたちも少なくありません。
最近、『斜陽』を読みましたと感想を話してくれた中学生がいました。太宰治といえば『人間失格』が有名ですが、『斜陽』は当時ベストセラーにもなった作品です。最近新しく映画化もしたので、読む人が増えているのかもしれませんね。
私は確信したい。人間は恋と革命のために生まれて来たのだ。
太宰治『斜陽』
父を亡くした没落貴族の母子の生活苦が描かれていますが、もちろんそれだけではありません。そこは太宰治、世間や社会の常識のようなものと戦う、恋と革命の小説とも言えます。

かつての教え子で「好きな三字熟語は何か」と聞いたら「太宰治」と答えた生徒がいました。彼は塾で文藝春秋を読むほど文学好きで、渋谷幕張高校に合格しました。元気にしてるかな。
教科書で出会う本
教科書には思わぬ出会いがあります。
私も教科書で魯迅を初めて読みました。
また、子どもの頃に『吾輩は猫である』と『坊ちゃん』は読んでいたのですが、夏目漱石の他の本を読んでみようとは思いませんでした。それが変わったのは、学校の教科書で『こころ』の一部を読んだときです。「こんな三角関係のドロドロを書く作家だったのか!」と驚き、他の作品も読むようになりました。他の作品を読んでみて「三角関係の話ばかり書いているじゃないか!」と、さらに驚くことになるのですが……。
今の中三生の国語教科書(光村図書)には、宮下奈都『羊と鋼の森』の冒頭文が掲載されていたり、小川洋子『博士の愛した数式』や森絵都『カラフル』などの現代作家の小説が紹介されています。
また、宮台真司『14歳からの社会学』や池田晶子『14歳からの哲学』など社会学や哲学を身近なものにしてくれる本も紹介されています。
どれも大人が読んでもおもしろい本ばかりです。
中学三年生は受験勉強で忙しいので、教科書で紹介されている本を実際に手に取ってみる子どもたちがどれくらいいるかはわかりません。勉強をしながらでも読書をする余裕くらいはほしいものです。
海外では日本の本を手に入れるのも簡単ではありません。シラチャには大型書店はないので、本を買うときはバンコクの紀伊國屋書店まで行く必要があります。海外在住者にとって電子書籍はありがたい存在ですが、子どもたちにはあまり普及していないようです。
街に書店や図書館がないと、本に触れる機会は必然的に少なくなってしまいます。読書を身近なものにするために、これからも本の話はどんどんしていきたいと思います。
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